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 - 2016.02.25 Thu

『断片的なものの社会学』(岸 政彦 著)

前から興味があって、リクエストした図書館から届いたので借りました(買えよ)。

読む人によって印象はずいぶん違うし、評価は分かれると思うけど、僕は面白かったです。

筆者は社会学者としてマイノリティと言われる人たち(ヤクザ・娼婦・路上生活者・同性愛者‥)にインタビューをしていて、その証言の断片を一見脈絡もなく散りばめています。

そこには「苦労の末に幸せになった(不幸になった)」という物語性は一切なく、ただ名もなき者たちの人生のかけらが無造作に路上に放り出されたままで転がっている・・・チェーホフなどロシア作家の短編集みたいですね。

筆者はこの手法で、私たち(マジョリティ?)が「まとも」だと思い込んでいる世界観を混乱させた後、一面だけ見てその人の心の中のみならず人生そのものを都合良く解釈することを傲慢だと批判しています。

たとえば瀕死の状態だった岸さんの愛犬が、彼がちょっと出かけた隙に死んでしまう。
自分を責める彼に知人が「きっとあなたを悲しませないようひとりで逝ったのよ」となぐさめる。
一見うまい言い方だが、犬はそんなことは考えないし、関係性を知らない人間が立ち入ることで、飼い主と犬双方の孤独感をより深めてしまう。

彼にとってそのなぐさめは暴力にさえ感じたという。

しかし一方では、人は個人の判断を重んじるばかりに相手の領域に立ち入らず、見て見ぬふりをすることが多々ある。
たとえその人が間違った選択をしていると知りつつもだ。
そういった私たちの態度は正しいのか、結局自分が傷つきたくないからではないか、ということも自問している。

そしてこれら課題について、筆者の出した結論は

「どうしていいかわからない」

とても正直な人ですね。


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「学者のくせに」とか「金出した本でこれかよ」と批判されるかもしれないけど、読めばわかると思います。
善意から起こした行動がかえって暴力性を帯びることもある。

私たちは事にあたって自失呆然と佇むしかないことのほうがむしろ多いのです。


社会現象や人の行動類型を分析して現代世界を読み解くのが社会学者の役割で、筆者も被差別部落や沖縄を中心とした論文や多くの著書を出しています。
しかし、その聞き取りの中でふと証言者がもらしたエピソード・・本論とは切り離され、どこにも行き着けない はぐれ雲のような思いや述懐・・が筆者の魂を強く揺さぶると言います。もちろん論文からはオミットされ、今まで書かれることはなかったけど、心のしこりとしてずっと残っていたこれら証言を集めたのがこの著書です。

美談でも悲劇でもなく、前後のつながりさえない
「断片的」なエピソードの中にこそ人間や社会の本質があるのではないか
何気ない日常の営みを切り取り、無作為に並べたときに初めて浮かび上がってくる実像があるのではないか

とても実験的なアプローチだと思います。

岸さんの弱い立場にある人々や動物たちに向ける眼差しが愛情に満ちていて、心が温まります。

評論やエッセイというよりも、新しい「文学」の香りが漂う不思議な本ですね。

完璧な人間関係を築く処方箋などないけど、私たちは寄りそっていくことはできる。
その距離感を迷いながら、苦悩しながら模索していくしかない。

久しぶりに何度も再読したいと思わせる、強い余韻の残る本でした。

● COMMENT ●

念のため

アマゾンに同文をコメントとして書き込みました。
そこからコピペーしたものではありませんよ。


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